2024.07.03

海綿状血管腫

かいめんじょうけっかんしゅ

海綿状血管腫とは

海綿状血管腫(かいめんじょうけっかんしゅ:Cavernous Hemangioma)は、血管の異常な塊で、スポンジ状の組織が腫瘍のように形成される状態です。正常な血管と異なり、異常に拡張して互いに絡み合った血管はスポンジのような形(海綿状)をしています。海綿状血管腫は良性であり、癌化することは稀です。


▲血管が奇形(スポンジ状)になる

海綿状血管腫は、血液を含んだ広がった血管が密集して形成されています。これらの血管は、薄い壁を持ち、容易に破裂することがあります。
皮膚や皮下組織、肝臓、脳、脊髄など様々な部位に発生し、脳や脊髄に発生する場合、神経症状を引き起こすことがあります。
皮膚にできる場合、赤や紫色のスポンジ状の塊のように見え、サイズは小さなものから大きなものまで様々であり、成長することがあります。

海綿状血管腫の症状

海綿状血管腫は、体内のさまざまな部位に発生し、その部位によって異なる症状を引き起こすことがあります。海綿状血管腫が発生する主な部位と、それに関連する症状についてご紹介します。

脊髄に現れる血管腫
・痛み
脊髄の血管腫が圧迫することで、背中や首に痛みを感じることがあります。
・運動機能障害
圧迫により、手足の筋力低下や麻痺が生じることがあります。
・感覚異常
しびれや感覚の鈍さが現れることがあります。
・排尿、排便障害
脊髄の血管腫が自律神経に影響を及ぼすと、排尿や排便に問題が生じることがあります。

一般的な症状とリスク
・無症状
小さい海綿状血管腫は多くの場合、無症状で偶然発見されます。
・出血リスク
血管腫が破裂すると、内出血を引き起こし、急激な症状の悪化を招くことがあります。

海綿状血管腫の症状は、発生部位とその大きさによって大きく異なります。無症状で偶然発見される場合が多い一方で、特に脳や脊髄に発生する場合は、重篤な神経症状を引き起こすことがあります。
 

海綿状血管腫の原因

海綿状血管腫の正確な原因は完全には解明されていませんが、遺伝的要因が大きく関与していると考えられています。海綿状血管腫の原因と関係する要因について紹介します。

遺伝的要因
・家族性の傾向
海綿状血管腫は家族性に発症することがあり、遺伝子の異常が原因とされています。家族性の海綿状血管腫は常染色体優性遺伝の形式を取ることが多く、親から子に50%の確率で遺伝します。
・特定の遺伝子変異
CCM1、CCM2、CCM3の3つの遺伝子の変異が海綿状血管腫と関連していることが知られています。これらの遺伝子は、血管内皮細胞の構造や機能に関与しており、変異が生じると血管が異常に形成されやすくなります。

先天性要因
・胎児期の発育異常
胎児の発育過程で血管の形成が異常をきたし、海綿状血管腫が形成されることがあります。これにより、出生時または幼少期に血管腫が認識されることがあります。

後天性要因
・外傷や手術
まれに、外傷や手術後に海綿状血管腫が発生することがあります。血管の損傷や再形成過程で異常な血管が形成されることがありますが、具体的なメカニズムは明確ではありません。

環境要因
・環境の影響
環境要因(例えば、妊娠中の母体の健康状態や感染症)が血管腫の発生に影響を与える可能性がありますが、確固たる証拠は少ないです。

病態生理学的要因
・血管の異常発達
海綿状血管腫は、正常な血管がスポンジ状に拡張して異常に絡み合うことで形成されます。血管内皮細胞の異常な成長や構造の変化が、血管の壁を薄くし、脆弱な血管網を作り出す原因となります。

その他の関連要因
・年齢
海綿状血管腫は生まれつき存在することが多いですが、年齢を重ねるにつれて発見されるケースもあります。男性と女性のどちらにも同様に発生します。
 

海綿状血管腫の診断

海綿状血管腫の診断には、以下のような手順と検査が含まれます。これらの診断手法を組み合わせることで、正確な診断が可能となります。

症状の確認と問診
患者さんの症状を詳細に確認します。発症時期、症状の持続時間、症状の進行具合、悪化要因なども確認します。

家族歴の確認
家族に海綿状血管腫や他の血管異常があるかどうかを確認します。家族性の傾向がある場合、遺伝的要因が関与している可能性があります。

視診と触診
皮膚や皮下組織の血管腫は、視診と触診で確認します。赤や紫色の斑点やスポンジ状の腫れが見られます。

画像検査
・超音波検査(エコー)
皮膚や皮下組織、肝臓などの血管腫の評価に使用されます。超音波を用いて血管の異常構造や腫瘍の大きさを確認します。
・MRI(磁気共鳴画像)
特に脳や脊髄の血管腫の診断に有用です。MRIは血管腫の詳細な構造を高解像度で映し出し、出血の有無や周囲組織への影響を評価できます。
・CT(コンピュータ断層撮影)
腫瘍の石灰化や周囲の骨構造との関係を評価するのに適しています。特に脳や脊髄の血管腫の出血の評価に有用です。
・血管造影
血管の詳細な構造を評価するために行われることがあります。造影剤を用いて血管を映し出し、異常な血管網を確認します。手術の計画にも役立ちます。

これらの検査結果を総合的に評価し、海綿状血管腫の診断を確定します。
診断が確定したら、患者の症状や腫瘍の位置・大きさに基づいて適切な治療計画を立てます。
 

海綿状血管腫の治療(保存療法)

海綿状血管腫の保存療法は、手術や侵襲的な治療を避け、症状の管理と腫瘍の成長を監視するための治療法です。保存療法は、特に無症状で腫瘍が小さい場合や、手術がリスクの高い場合に適用されます。

保存療法の適応
・症状が軽く、痛みや機能障害がない、もしくは軽度で日常生活に大きな支障がない場合。
・腫瘍が小さく、成長が遅い場合。
・手術や侵襲的な治療が高いリスクを伴う場合。
・自然退縮の可能性がある場合。特に小児においては、自然に消失することがあるため、経過観察が推奨される場合。

保存療法の具体的な方法
・症状の管理
軽度の痛みや不快感がある場合は、鎮痛薬や抗炎症薬を使用して症状を緩和します。血管腫が出血しやすい場合には、外傷を避けるなどの注意が必要です。
・生活習慣の改善
血行を改善するための適度な運動や、健康的な食生活を心がけることが推奨されることがあります。
・定期的な相談と教育
患者や家族が海綿状血管腫について理解し、適切な対応ができるようにするための教育や相談が行われます。

保存療法の利点と欠点
・利点
手術や治療によるリスクを回避できます。特に小児では、自然退縮の可能性があるため、無駄な治療を避けることができます。
・欠点
腫瘍が大きくなる可能性があるため、定期的なフォローアップが不可欠です。症状が進行した場合には、緊急の対応が必要になることがある。
 

海綿状血管腫の治療(手術)

海綿状血管腫の手術は、症状の重さ、腫瘍の大きさや位置、患者の全体的な健康状態に基づいて決定されます。手術の目的は、症状の緩和、出血の予防、神経学的障害の防止です。

手術の適応
・痛み、出血、圧迫症状、神経症状などが日常生活に支障をきたすほど症状が重い場合。
・腫瘍が急速に大きくなっている場合。
・保存療法やその他の非侵襲的治療が効果を示さない場合。
・合併症のリスクが高い場合。例えば脳内や脊髄内の血管腫で出血のリスクが高い場合。

手術の種類
・切除手術
腫瘍そのものを完全に取り除く手術です。特に、腫瘍が明確に分離されている場合や、取り除くことで症状の改善が期待できる場合に適しています。

手術の利点とリスク
・利点
症状の迅速な軽減ができます。腫瘍の完全除去による再発リスクの低減、生活の質の向上が可能です。
・欠点
手術に伴う感染や出血のリスクがあり、周囲の神経や組織への損傷に注意が必要です。また、麻酔に伴うリスクも存在します。

海綿状血管腫の治療(術後リハビリ)

リハビリテーションは、手術の種類や腫瘍の位置、患者の全体的な健康状態によって異なります。

リハビリテーションの目的
・手術によって影響を受けた身体機能の回復を目指します。
・術後の痛みを軽減し、快適な生活を送るための対策を講じます。
・日常生活の活動を再開し、自立した生活を送れる状態を目指します。
・手術に伴う心理的ストレスを軽減し、精神的な健康を維持することを目指します。

リハビリテーションの内容
・ベッド上の運動(術後1週間)
肺機能の維持と改善を図るために深呼吸や咳嗽(せき)の訓練を行います。他に、ベッド上での軽いストレッチや関節の動きを促進する運動を行い、血行を改善し、筋力低下を防ぎます。
・運動療法(術後2〜4週間)
徐々に歩行を再開し、筋力と持久力を向上させます。最初は歩行補助器具を使用し、段階的に自力歩行を目指します。また、手術部位に負担をかけない範囲で、理学療法士の指導のもと、筋力を強化するためのエクササイズを行います。
・バランス訓練
バランス能力を改善し、転倒リスクを減らすためのエクササイズを行います。
・日常生活動作の訓練(術後1〜3ヶ月)
食事、着替え、入浴などの日常生活の基本的な動作を再習得する訓練を行います。必要に応じて、自助具(補助器具)を使用し、独立性を高めます。例えば、手すりやシャワーチェアなど。
・痛み管理
鎮痛剤や抗炎症薬の適切な使用により、痛みを管理します。ほかに、温熱療法や冷却療法、電気刺激などの物理療法を用いて、痛みや炎症を軽減します。
・心理的サポート
手術に伴う不安やストレスを軽減するために、心理カウンセリングを提供します。同じような経験を持つ患者との交流を通じて、精神的な支えを得ることができます。
・栄養と生活習慣の改善
健康的な食事を心がけ、体調の維持を図ります。栄養バランスの取れた食事は、全身の健康をサポートします。
・生活指導
患者の日常生活活動に関するアドバイスを提供し、負担を軽減する方法を教えます。姿勢の改善や適切な体の使い方を指導します。
 

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