2024.07.03
腰椎椎間板ヘルニア
ようついついかんばんへるにあ
腰椎椎間板ヘルニアとは
腰椎椎間板ヘルニア(ようついついかんばんへるにあ)は、腰椎の椎間板が損傷または変性し、髄核が外に飛び出して神経を圧迫することで発症する疾患です。
腰椎の構造と役割
腰椎は背骨(脊柱)の下部に位置し、L1からL5までの5つの椎骨で構成されています。
腰椎は体重を支えるとともに、椎骨の間での動きを可能にする役割を果たしています。
椎間板の構造と役割
椎間板は各椎骨の間に位置する軟骨組織で、外側の繊維輪と内側の髄核から成ります。
繊維輪は強靭な繊維性組織でできており、髄核を囲んでいます。
髄核はゲル状の物質で、椎間板の弾力性とクッション機能を提供します。これにより、衝撃を吸収し、椎骨同士が直接ぶつからないようにしています。
椎間板ヘルニアとは
椎間板は、年齢や過度の負荷や外傷などにより、徐々に変性します。その結果、繊維輪が弱くなり髄核が外に押し出されやすくなります。他にも、椎間板の水分が減少し弾力性が低下することがあり、これによりクッション機能が弱まり、椎間板にかかる負担が増加します。
椎間板が変性することによって繊維輪が弱くなり、激しい運動や重いものを持ち上げるなどの突然の過度な負荷や、姿勢の悪さや長時間の座位などの長期的な過負荷などが加わると、線維輪に亀裂や裂け目が生じて内側の髄核が外に押し出されます。これが「ヘルニア」と呼ばれる状態です。
飛び出した髄核は、近くにある神経根や脊髄を圧迫し、様々な症状を発現させます。
▲椎間板が変性することで線維輪から髄核が押し出されて脊髄を圧迫。
腰椎椎間板ヘルニアの症状
症状は圧迫される神経の部位や程度により異なります。腰椎椎間板ヘルニアの主な症状についてご紹介しましょう。
腰痛
椎間板ヘルニアが発生した部位の周囲(通常は腰椎の下部)に強い痛みが生じます。これは、腰椎の変性や損傷によるものです。
坐骨神経痛
腰から臀部、太もも、ふくらはぎ、そして足まで痛みが放散します。これを坐骨神経痛と呼びます。典型的には片側の脚に痛みが現れますが、両側に症状が出ることもあります。痛みは鋭く、電気が走るような感覚や灼熱感を伴うことがあります。
しびれ
しびれや感覚の鈍さが、臀部、太もも、ふくらはぎ、足などに現れます。圧迫される神経の部位により、しびれの場所が異なります。
筋力低下
圧迫されている神経が支配する筋肉に力が入りにくくなります。例えば、足首や足指の動きが制限されることがあります。また、筋力低下により足がもつれたり、歩行が不安定になることがあります。
排尿・排便障害(重症例)
まれに、馬尾神経(脊髄の末端部分)が圧迫される(馬尾症候群)ことがあります。これにより、排尿や排便のコントロールが困難になることがあります。緊急の医療対応が必要です。
姿勢の変化
痛みを避けるために、自然と姿勢が変わることがあります。例えば、痛みを軽減するために身体を片側に傾けることがあります。
動作による痛みの変化
特定の動作(前かがみ、物を持ち上げる、座るなど)で痛みが増すことがあります。一方、横になったり休息を取ることで痛みが軽減することもあります。
腰椎椎間板ヘルニアの症状は、多岐にわたり、個々の患者の状態によって異なります。
腰椎椎間板ヘルニアの原因
腰椎椎間板ヘルニアの原因は多岐にわたり、患者さんの生活習慣や身体の特徴、遺伝的要因などが影響を及ぼします。
年齢と椎間板の変性
年齢とともに椎間板が変性し、水分量が減少します。これにより椎間板の弾力性が低下し、外部からの衝撃に対して脆弱になります。椎間板が徐々に劣化し、外側の繊維輪が弱くなると、内側の髄核が突出しやすくなります。この変性は、特に40歳以上の人々に多く見られます。
過度の身体的負担
不適切な方法で重い物を持ち上げることが、椎間板に過剰な圧力をかけ、ヘルニアを引き起こす可能性があります。
反復的な動作
特定の動作を繰り返すことで、椎間板に負担がかかり、損傷が蓄積されます。例えば、長時間の前かがみ姿勢や腰を捻る動作が多い職業の人々に多く見られます。
不適切な姿勢
長時間のデスクワークや、背中を丸めた姿勢での作業は、腰に負担をかけ、椎間板にストレスを与えます。また、長時間座ることも、腰椎に負担をかけ、椎間板の劣化を促進します。
急性の外傷
事故やスポーツによる急激な外力が腰に加わると、椎間板が損傷し、ヘルニアが発生することがあります。
遺伝的要因
家族に腰椎椎間板ヘルニアの患者がいる場合、遺伝的にリスクが高いとされます。遺伝子の影響で、椎間板が劣化しやすい体質を持っている可能性があります。
腰椎椎間板ヘルニアの診断
腰椎椎間板ヘルニアの診断は、患者の症状の確認、身体検査、画像検査、および電気診断検査を組み合わせて行います。
症状の確認
痛みやしびれを感じる部位や状況などを伺い、腰椎椎間板ヘルニアに該当する症状があるかを確認します。
身体検査
次に身体検査を行い、症状の原因を特定します。
・筋力検査
筋力の低下があるか確認します。
・感覚検査
触覚、痛覚、温度覚などの感覚異常を調べます。
・腱反射検査
反射の過剰や減弱を確認します。
・SLRテスト(Straight Leg Raising Test)
患者が仰向けに寝て、脚を真っ直ぐに持ち上げるテストです。脚を持ち上げたときに痛みが出る場合、坐骨神経が圧迫されている可能性があります。
画像検査
確定診断には画像検査が重要です。以下の検査が一般的に行われます。
・X線撮影(レントゲン)
手軽で非侵襲的な検査方法です。骨の構造を確認します。椎間板そのものは写りませんが、椎骨の間隔や変形の有無を確認できます。
・CTスキャン(コンピュータ断層撮影)
骨と椎間板の詳細な画像を提供します。骨化や細かい骨構造の変化を確認できます。X線よりも詳細な画像が得られます。
・MRI(磁気共鳴画像法)
椎間板、神経根、脊髄の状態を詳細に評価できます。軟部組織の異常やヘルニアの程度を確認できます。椎間板の髄核の飛び出しや神経圧迫の状態を正確に把握できます。
鑑別診断
腰椎椎間板ヘルニアと類似の症状を引き起こす他の疾患との鑑別も重要です。
・腰椎脊柱管狭窄症
腰部の脊柱管が狭くなり、神経を圧迫する疾患。
・腰椎分離症/すべり症
椎骨の一部が分離し、前後にずれることで痛みを引き起こす疾患。
・腰椎腫瘍
脊椎に発生する腫瘍。
・感染性脊椎炎
脊椎の感染症。
腰椎椎間板ヘルニアの治療(保存療法)
腰椎椎間板ヘルニアの治療方法は、症状の重さや進行状況、患者の生活スタイルに応じて異なり、主に保存療法と外科療法に分けられます。
薬物療法
・鎮痛薬
一般的な痛みを緩和するために、アセトアミノフェンや非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)が処方されます。
・筋弛緩薬
筋肉の緊張を和らげるために使用されます。
・神経ブロック
硬膜外ステロイド注射など、局所麻酔薬やステロイドを用いて神経根周囲の炎症と痛みを軽減します。
理学療法
・ストレッチとエクササイズ
筋肉の柔軟性と強度を改善し、腰部の負担を減らすためのプログラムが組まれます。
・姿勢矯正
正しい姿勢を保つためのトレーニングと指導が行われます。
生活習慣の改善
・体重管理
適正体重を維持することで、腰椎への負担を減らします。
・姿勢の改善
座り方、立ち方、歩き方を見直し、腰に負担をかけないようにします。
・適度な運動
定期的な軽い運動が推奨されます。ウォーキングや水中運動が効果的です。
腰椎椎間板ヘルニアの治療(外科療法)
保存療法で症状が改善しない場合や、神経症状が進行する場合には、外科的治療が検討されます。
内視鏡下椎間板ヘルニア摘出術、顕微鏡下椎間板ヘルニア摘出術
内視鏡や顕微鏡を用いて、最小限の切開で椎間板の飛び出した部分を除去します。小さな切開で済み、回復が早い点や、術後の痛みが少ない点などがメリットとなる手術です。
平均入院期間:通常は5〜7日間。手術後の経過が順調であれば、数日で退院可能です。手術後の痛みや状態に応じて入院期間が決まります。
脊椎固定術
隣接する椎骨を金属プレートやスクリューで固定し、脊椎の安定性を高めます。椎間板の除去と同時に行われることがあります。長期的な安定性を確保でき、再発リスクを減らせます。
平均入院期間:7〜10日間。手術がより侵襲的であるため、回復に時間がかかります。
腰椎椎間板ヘルニアの入院期間は、手術の種類、患者の全体的な健康状態、術後の回復速度などによって異なります。一般的な手術の種類とそれに伴う平均的な入院期間についてご紹介します。
腰椎椎間板ヘルニアの治療(術後管理とリハビリ)
腰椎椎間板ヘルニアの手術後の管理とリハビリテーションは、患者の回復を最適化し、再発や合併症を防ぐために非常に重要です。
感染予防
手術後の傷口は清潔に保ち、感染を防ぐための抗生物質が処方されることがあります。傷口の観察を続け、異常がないか確認します。
定期的な検診
術後の経過を確認するために、定期的に医師の診察を受けましょう。
活動制限
手術直後は安静にすることが求められます。医師の指示に従い、徐々に活動を再開します。重い物を持ち上げることや腰に負担をかける動作は避けて生活しましょう。
栄養管理
体力回復を促すために、たんぱく質やビタミン、ミネラルをバランス良く摂取します。
水分補給
十分な水分を摂取することも重要です。
初期リハビリ(術後~6週間)
・軽い運動
ベッド上での軽い運動やストレッチを行い、筋肉の萎縮を防ぎます。
・呼吸運動
肺の機能を維持し、肺炎などの合併症を予防するために、深呼吸や呼吸運動を行います。
・歩行訓練
介助を受けながら、歩行訓練を開始します。まずは歩行器や杖を使用し、徐々に自立歩行を目指します。
・筋力強化
特に背筋や腹筋の強化を行い、脊椎の安定性を高めます。筋力を戻すことで、日常生活に復帰しやすくなります。
後期リハビリ(術後6週間以降)
・バランス訓練
バランスを改善するための運動を行います。これにより、転倒リスクを減らし、日常生活での安全性を向上させます。
・姿勢矯正
正しい姿勢を維持するための訓練を行います。姿勢が悪いと再発リスクが高まるため、重要な要素です。
・柔軟性向上
ストレッチやヨガなどのエクササイズを通じて、柔軟性を高めます。
生活指導
日常生活で脊椎に負担をかけない方法を学びます。例えば、重い物を持つ際の姿勢や、適切な椅子の選び方などです。仕事への復帰を目指す場合は、職場環境の調整や業務内容の見直しを行います。必要に応じて職場での作業療法士の支援を受けましょう。
定期的なフォローアップ
・診察と検査
定期的な診察と画像検査を行い、術後の経過を確認します。再発や新たな問題がないかをチェックします。
・継続的なリハビリ
症状が改善しても、再発防止のために継続的なリハビリを行います。リハビリテーションの頻度や内容は、医師や理学療法士と相談して決定します。
・精神的サポート
心理的支援: 手術や長期のリハビリに伴う心理的ストレスを軽減するために、カウンセリングや心理的サポートが提供されることがあります。
さいごに
はじめは軽い腰痛や時折のしびれなど、日常生活に大きな支障がない程度の軽度の症状ですが、しだいに持続的な腰痛、頻繁な坐骨神経痛、筋力低下など、日常生活に支障をきたす症状にレベルが進行し、重度の場合は、立ち上がるのも困難な激痛、著しい筋力低下や麻痺、排尿・排便障害など、緊急の医療対応が必要な症状にまで発展することがあります。
少しでも気になる症状が現れたら、早めに診察を受けていただくことをおすすめします。