2024.07.04
硬膜内髄内腫瘍
こうまくないずいないしゅよう
硬膜内髄内腫瘍とは
硬膜内髄内腫瘍は、脊髄の内部、つまり髄質内に発生する腫瘍です。この種類の腫瘍は、脊髄の実質自体に起源を持ち、周囲の神経組織に直接影響を与えるため、診断と治療が難しい場合があります。
硬膜内髄内腫瘍の構造と位置
硬膜内髄内腫瘍は、脊髄の実質(髄質)内に発生する腫瘍です。脊髄の軟膜内に存在し、硬膜内ではありますが、脊髄の内部にあります。
硬膜内髄内腫瘍は、脊髄のどの部位にも発生する可能性があります。一般的に、頸髄や胸髄に多く発生します。
▲脊髄の内部に腫瘍が発生
代表的な硬膜内髄内腫瘍の種類
・上衣腫
上衣細胞から発生する腫瘍で、脊髄髄内腫瘍の中で最も一般的です。通常、良性ですが、再発することがあります。
・星細胞腫
星状膠細胞(アストロサイト)から発生する腫瘍で、子供や若年成人に多く見られます。悪性度が様々で、低悪性度(グレードI)から高悪性度(グレードIV)まであります。
・髄内腫瘍
非常に悪性のグリオーマで、稀ですが非常に侵襲的です。
硬膜内髄内腫瘍の症状
硬膜内髄内腫瘍は、脊髄の実質内に発生する腫瘍であり、さまざまな神経症状を引き起こします。これらの症状は、腫瘍の位置、大きさ、成長速度、および周囲の神経組織への影響によって異なります。
局所的な痛み
腫瘍が発生した部位の背部や頚部に局所的な痛みが生じることがあります。この痛みは、腫瘍が周囲の神経組織や骨構造に圧力をかけるために発生します。
放散痛
痛みが特定の神経根に沿って放散することがあります。例えば、胸髄に腫瘍がある場合、肋間神経に沿った痛みが生じることがあります。
しびれやチクチク感
腫瘍が脊髄内の感覚神経経路を圧迫すると、しびれやチクチク感が生じることがあります。これは、腕や脚、体幹に感じられることが多いです。
感覚低下
触覚、温度感覚、痛覚などの感覚が鈍くなることがあります。これも腫瘍による神経圧迫が原因です。
局所的な筋力低下
腫瘍が運動神経経路を圧迫することにより、筋力低下が生じます。例えば、頚髄に腫瘍がある場合、上肢や肩の筋力が低下することがあります。
麻痺
腫瘍が進行し、重度の圧迫が続くと、完全な麻痺が発生することがあります。これは通常、下肢に影響を及ぼし、歩行困難や車椅子の使用が必要になることがあります。
反射の低下または消失
腱反射(膝蓋腱反射など)が低下または消失することがあります。これは、腫瘍が神経根や脊髄を圧迫するためです。
異常反射
バビンスキー反射などの病的反射が現れることがあります。
排尿・排便障害
脊髄の下部に腫瘍がある場合、排尿や排便の制御に問題が生じることがあります。頻尿、尿失禁、便秘などの症状が現れることがあります。
性的機能障害
性機能の低下や勃起不全が生じることがあります。これは、自律神経経路への圧迫が原因です。
歩行困難
筋力低下や感覚異常により、歩行が困難になることがあります。これは、足の動きがぎこちなくなったり、バランスが取れなくなるためです。
呼吸障害
頚髄に腫瘍がある場合、呼吸筋が影響を受けることがあり、呼吸が困難になることがあります。
ホルネル症候群
上位胸髄に腫瘍がある場合、顔面の片側にホルネル症候群(瞳孔縮小、眼瞼下垂、顔面の発汗低下)が現れることがあります。
硬膜内髄内腫瘍の症状は、腫瘍の成長速度や位置によって異なります。腫瘍がゆっくりと成長する場合、症状は徐々に進行し、患者は初期症状を無視することがあります。一方、急速に成長する腫瘍の場合、症状が急激に悪化することがあります。
硬膜内髄内腫瘍の原因
硬膜内髄内腫瘍の原因は多岐にわたり、具体的な発生メカニズムは完全には理解されていません。
上衣腫の原因
上衣腫は、脊髄の中心管や脳室の上衣細胞から発生する腫瘍です。上衣細胞の異常な増殖が原因で、特定の遺伝子変異が関与していることがあります。放射線被曝がリスク要因として知られており、放射線治療を受けた人に発生するリスクが高まることがあります。
星細胞腫の原因
星細胞腫は、脊髄内のアストロサイト(星状膠細胞)から発生する腫瘍です。遺伝的要因が大きく関与しており、TP53遺伝子の変異やNF1(神経線維腫症1型)に関連する遺伝子異常が発生に寄与しています。
多くの場合、原因は不明ですが、特定の環境要因や遺伝的要因が関与している可能性があります。
神経膠腫の原因
神経膠腫は、脊髄のグリア細胞から発生する腫瘍です。グリア細胞は、神経細胞を支持し、保護する役割を担っています。遺伝的要因や環境要因が関与しており、特定の遺伝子変異が発生に寄与します。放射線被曝もリスク要因として知られています。
血管芽腫の原因
血管芽腫は、血管内皮細胞から発生する腫瘍で、比較的まれです。フォン・ヒッペル・リンドウ病(VHL)という遺伝性疾患に関連して発生することがあります。この疾患は、VHL遺伝子の変異によって引き起こされます。
その他の原因
・遺伝的要因
多くの脊髄腫瘍は、遺伝的要因に関連しています。例えば、NF1やNF2(神経線維腫症2型)などの遺伝性疾患は、脊髄腫瘍のリスクを高めます。
・偶発的変異
多くの腫瘍は、偶発的な遺伝子変異によって発生します。これらの変異は、細胞の増殖や分化を制御する遺伝子に影響を与えることがあります。
硬膜内髄内腫瘍の診断
硬膜内髄内腫瘍の診断は、複数の診断手法を組み合わせて行われます。
症状の確認と問診
患者の症状(痛み、感覚異常、筋力低下、排尿・排便障害など)を詳しく聴取します。症状の発症時期、進行状況、重症度、影響を受ける体の部位などを確認します。
神経学的検査
筋力、感覚、反射の評価を行います。これは、どの神経根や脊髄レベルが影響を受けているかを特定するのに役立ちます。バランス、歩行、協調運動の検査も含まれます。
画像診断
・MRI(磁気共鳴画像法)
硬膜内髄内腫瘍の診断において最も有効な画像診断法です。脊髄と腫瘍の詳細な画像を提供し、腫瘍の位置、大きさ、形状、境界を正確に評価します。造影剤を使用することで、腫瘍の内部構造や血液供給をより明確にすることができます。
・CTスキャン(コンピュータ断層撮影)
骨構造や腫瘍の石灰化を確認するために使用されることがありますが、MRIほど詳細な軟部組織の画像は提供できません。特に骨の変形や骨折を評価するのに有用です。
・脊髄造影
脊髄周囲に造影剤を注入し、X線やCTスキャンで脊髄と腫瘍の状態を評価します。造影剤が腫瘍によって圧迫された部分で異常な流れを示すため、腫瘍の存在を示唆することができます。
生検
確定診断のためには、腫瘍組織の一部を採取して顕微鏡で調べることが必要です。生検は通常、手術中に行われ、腫瘍の正確な診断と分類を行います。腫瘍の良性・悪性の判断や、特定の組織型の確認が行われます。
硬膜内髄内腫瘍の診断は、多角的なアプローチを必要とします。病歴聴取と神経学的評価に始まり、画像診断、脳脊髄液検査、病理学的評価を通じて正確な診断が行われます。特にMRIが中心的な役割を果たし、腫瘍の詳細な評価が可能です。
硬膜内髄内腫瘍の治療(保存療法)
硬膜内髄内腫瘍の保存療法は、手術や放射線療法などの侵襲的な治療を避けるために選択されることがあります。保存療法の選択は、腫瘍の種類、位置、サイズ、成長速度、患者の全体的な健康状態、ならびに症状の重症度に基づいて慎重に行われます。
保存療法の適応
・腫瘍が小さく、成長が非常に遅い場合や、ほとんど成長しない場合。
・痛みや感覚異常が軽度で、日常生活に大きな影響を及ぼしていない場合。
・全身状態が手術に耐えられない患者、または手術のリスクが高い患者の場合。
・患者が手術や放射線療法を望まない場合。
保存療法の具体的な方法
・定期的な観察とフォローアップ
定期的にMRIやCTスキャンを行い、腫瘍の大きさや形状の変化を監視します。通常、3ヶ月から6ヶ月ごとに検査を行います。画像診断により、腫瘍の成長や新たな病変の出現を早期に検出します。
加えて定期的に神経学的検査も行い、症状の進行や新たな神経症状の発生を評価します。患者さんの筋力、感覚、反射、協調運動などをチェックします。
症状の管理
・薬物療法
痛みの管理には、鎮痛剤(NSAIDs、オピオイドなど)や抗痙攣薬を使用します。神経痛に対しては、抗うつ薬や抗てんかん薬が効果的な場合があります。
・理学療法
筋力強化や柔軟性の向上を目的としたエクササイズを行います。これにより、痛みの軽減や機能の維持を図ります。適切なストレッチやエクササイズにより、筋力の低下を防ぎます。
・生活指導
患者の日常生活活動に関するアドバイスを提供し、負担を軽減する方法を教えます。姿勢の改善や適切な体の使い方を指導します。
生活の質の維持
・心理的サポート
腫瘍の存在による不安やストレスを軽減するために、心理カウンセリングやサポートグループへの参加を勧めます。
・栄養管理
健康的な食事を心がけ、体調の維持を図ります。栄養バランスの取れた食事は、全身の健康をサポートします。
保存療法の利点と欠点
・利点
手術や放射線治療によるリスクや合併症を回避できます。高齢者や全身状態が不安定な患者さんにとって、安全な選択肢となります。
・欠点
腫瘍が成長したり、症状が進行した場合に、最終的には手術が必要になることがあります。定期的なフォローアップが必要で、患者さんにとって時間的・経済的負担がかかることがあります。また、症状が急速に悪化した場合、緊急手術が必要となるリスクがあります。
硬膜内髄内腫瘍の治療(手術)
硬膜内髄内腫瘍の手術は、腫瘍の位置、大きさ、患者の症状、および全体的な健康状態に応じて行われます。
手術の適応
・痛み、筋力低下、感覚異常、歩行困難などの症状が進行している場合。
・画像診断で腫瘍が成長していることが確認された場合。
・保存療法や薬物療法が効果を示さない場合。
・神経機能の回復や維持のために早急な介入が必要とされる場合。
手術の種類と方法
・完全切除
腫瘍を完全に除去する手術です。特に、腫瘍が明確に分離されている場合や、取り除くことで症状の改善が期待できる場合に適しています。手術の成功率が高く、再発のリスクが低くなります。
・部分切除
腫瘍の一部を切除する手術です。完全切除が困難な場合や、腫瘍が重要な神経構造に近接している場合に行われます。残存腫瘍の成長を監視し、必要に応じて追加の治療を行います。
硬膜内髄内腫瘍の治療(術後リハビリテーション)
リハビリテーションは、多面的なアプローチを通じて、筋力の回復、痛みの管理、機能的な独立性の向上、および心理的サポートを提供します。
リハビリテーションの目的
・手術で影響を受けた神経機能の回復を目指します。
・筋力の低下を防ぎ、柔軟性を向上させます。
・術後の痛みを軽減し、快適な生活を送るための対策を講じます。
・日常生活の動作を再習得し、自立した生活を送れる状態を目指します。
・手術に伴う心理的ストレスを軽減し、精神的な健康維持を目指します。
リハビリテーションの具体的な内容
・ベッド上の運動(術後〜)
肺機能の維持と改善を図るために深呼吸や咳嗽(せき)の訓練を行います。他に、ベッド上での軽いストレッチや関節の動きを促進する運動を行い、血行を改善し、筋力低下を防ぎます。
・運動療法(術後3日目〜)
徐々に歩行を再開し、筋力と持久力を向上させます。最初は歩行補助器具を使用し、段階的に自力歩行を目指します。また、手術部位に負担をかけない範囲で、理学療法士の指導のもと、筋力を強化するためのエクササイズを行います。
・バランス訓練
バランス能力を改善し、転倒リスクを減らすためのエクササイズを行います。
・日常生活動作の訓練(術後1〜3ヶ月)
食事、着替え、入浴などの日常生活の基本的な動作を再習得する訓練を行います。必要に応じて、自助具(補助器具)を使用し、独立性を高めます。例えば、手すりやシャワーチェアなど。
・痛み管理
鎮痛剤や抗炎症薬の適切な使用により、痛みを管理します。ほかに、温熱療法や冷却療法、電気刺激などの物理療法を用いて、痛みや炎症を軽減します。
・心理的サポート
手術に伴う不安やストレスを軽減するために、心理カウンセリングを提供します。同じような経験を持つ患者との交流を通じて、精神的な支えを得ることができます。
・栄養と生活習慣の改善
健康的な食事を心がけ、体調の維持を図ります。栄養バランスの取れた食事は、全身の健康をサポートします。
・生活指導
患者の日常生活活動に関するアドバイスを提供し、負担を軽減する方法を教えます。姿勢の改善や適切な体の使い方を指導します。