2024.07.04
腰椎後縦靭帯骨化症
ようついこうじゅうじんたいこつかしょう
腰椎後縦靭帯骨化症とは
腰椎後縦靭帯骨化症(ようついこうじゅうじんたいこっかしょう)は、後縦靭帯が異常に骨化することにより発生する疾患です。通常は柔軟であるべき靭帯が硬くなり、脊柱管内で骨のように変化し、骨化した靭帯が脊髄や神経根を圧迫することにより、神経伝導が阻害され、腰痛、下肢のしびれや痛み、麻痺などの症状が現れます。
▲靭帯が骨化して脊髄を圧迫
腰椎後縦靭帯骨化症の症状
腰椎後縦靭帯骨化症では、主に以下のような症状が現れます。
腰痛(初期症状)
腰部に鈍い痛みや重苦しい感じがあり、動作によって悪化することがあります。
下肢のしびれや痛み(初期症状)
特に長時間座ったり、歩いたりした後に、脚にしびれや痛みが現れます。
感覚異常(進行した症状)
足の感覚が鈍くなる、冷たさや温かさを感じにくくなるなどの症状が現れることがあります。
筋力低下(進行した症状)
下肢の筋力が低下し、歩行が困難になることがあります。重度の場合、足を引きずるようになることもあります。
歩行障害(進行した症状)
歩行時に不安定さを感じることが多く、バランスを取るのが難しくなることがあります。
膀胱や腸の機能障害(進行した症状)
非常に進行した場合には、排尿や排便のコントロールが難しくなることがあります。
筋肉のけいれんやこわばり(その他の症状)
腰部や下肢の筋肉にけいれんやこわばりが生じることがあります。
坐骨神経痛(その他の症状)
腰から臀部、太もも、ふくらはぎにかけて、鋭い痛みが走ることがあります。
腰椎後縦靭帯骨化症の原因
腰椎後縦靭帯骨化症の原因はまだ完全には解明されていません。現段階では、以下の要因が関与していると考えられています。
遺伝的素因
家族歴がある場合、遺伝的要因が関与している可能性があります。一部の研究では、この疾患が特定の遺伝子変異と関連していることが示唆されています。
職業的要因
長時間の座位や重労働など、腰椎に負荷がかかる職業に従事している人はリスクが高まる可能性があります。
運動不足
運動不足や長時間の不適切な姿勢が原因となり得ることがあります。
年齢要因
中年から高齢者にかけて発症することが多いです。年齢を重ねるにつれて、靭帯の柔軟性が低下し、骨化が進行しやすくなります。
性別の要因
性別を問わず発症することがありますが、特に男性に多く見られる傾向があります。
外傷
腰椎や脊柱に対する外傷が引き金となることがあります。
慢性疾患
その他の慢性疾患(例えば、関節リウマチなど)がリスクを高めることがあります。
腰椎後縦靭帯骨化症の発症には、これらの複数の要因が絡み合っていると考えられます。
腰椎後縦靭帯骨化症の診断
腰椎後縦靭帯骨化症の診断は、症状の評価、身体検査、および画像検査を組み合わせて行います。
症状の評価
・腰痛の有無やその強さ、持続時間
・下肢のしびれや痛み、筋力低下の有無
・歩行困難やバランスの問題
・排尿や排便の障害の有無
など、患者者さんの症状について詳しく尋ねます。
身体検査
・神経学的検査
反射、感覚、筋力を評価し、神経の圧迫や損傷の程度を確認します。
・歩行評価
歩行の安定性やバランスをチェックします。
・可動域検査
腰部や下肢の可動域を評価します。
画像検査
・X線(レントゲン)検査
骨化の程度を確認し、他の骨や関節の異常を排除するために行います。骨化した後縦靭帯が白く映ります。
・MRI(磁気共鳴画像)検査
脊髄や神経根の圧迫状態、軟部組織の詳細な評価を行います。軟部組織の状態を高解像度で表示し、神経の圧迫の程度を明確にします。
・CT(コンピュータ断層撮影)検査
骨化の詳細な形状や位置を確認するために使用されます。骨の構造を詳細に表示し、骨化の広がりや他の骨病変を評価します。
その他の検査
・神経伝導検査
神経の機能を評価し、神経損傷の程度を確認します。
・骨密度検査
骨粗鬆症の有無を確認し、骨の強度を評価します。
腰椎後縦靭帯骨化症の治療(保存療法)
腰椎後縦靭帯骨化症の治療は、症状の重症度や進行具合によって異なります。
症状が軽度である場合、まずは保存的治療が試みられます。
薬物療法
・鎮痛剤
非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)などが用いられ、痛みや炎症を軽減します。
・筋弛緩剤
筋肉のこわばりやけいれんを緩和します。
・神経痛治療薬
神経痛の軽減を目的とした薬が処方されることがあります。
理学療法(リハビリテーション)
・運動療法
腰椎の柔軟性と筋力を高めるための特定の運動が指導されます。
・姿勢矯正
正しい姿勢を保つためのトレーニングや指導が行われます。
・温熱療法
温熱療法や電気刺激療法などを用いて痛みを和らげ、血流を改善します。
生活習慣の改善
・体重管理
適切な体重を維持することで腰椎への負担を軽減します。
・姿勢改善
座る姿勢や立つ姿勢を正しく保つように指導されます。
腰椎後縦靭帯骨化症の治療(外科療法)
保存的治療で症状が改善しない場合や、神経圧迫が重度で生活に支障が出ている場合には、手術が検討されます。
椎弓切除術
背骨の後方部分(椎弓)を一部または全部切除して、脊髄や神経根への圧迫を解消します。圧迫の原因となる骨化した靭帯や骨を取り除くことで、神経症状を改善します。
背骨の一部を切除するため、手術後の脊柱の安定性が低下する可能性があります。
脊椎固定
金属プレートやスクリューを使用して、複数の椎骨を固定し、一つの骨のように連結します。骨移植を行い、固定部位の骨が一体化するのを促進します。
不安定な脊柱を固定することで、術後の脊柱の安定性を向上させます。
固定した部分の可動性が失われるため、動きが制限されることがあります。
腰椎後縦靭帯骨化症の治療(術後リハビリテーション)
手術後のリハビリテーションは、患者の回復を促進し、再発を防ぎ、日常生活への早期復帰を目指すために重要です。リハビリテーションの内容は、手術の種類や患者の状態に応じて個別に調整されます。
急性期(術後〜2週間)
この期間は、手術によるダメージからの回復を図りつつ、基本的な機能を回復することを目的とします。
・ベッド上での運動
深呼吸や四肢の軽い運動を行い、血行を促進します。足の動きや足首のポンピング運動を行い、血栓の予防をします。
・座位と立位の練習
術後数日以内に座位や立位を取る練習を開始します。介助を受けながら、徐々に自力で座ったり立ったりすることを目指します。
・歩行訓練
歩行器や杖を使用して、短時間の歩行練習を行います。歩行距離を徐々に延ばし、日常生活に必要な歩行能力を回復します。
回復期(術後2週間〜3ヶ月)
この期間は、体力や筋力の回復を図り、日常生活への復帰を目指します。
・筋力強化運動
腰部や下肢の筋力を強化する運動を行います。特に腹筋や背筋のトレーニングが重要です。ゴムバンドや軽いダンベルを使用した運動を行い、徐々に負荷を増やします。
・ストレッチ
筋肉の柔軟性を高めるために、ストレッチを行います。特に腰部や下肢のストレッチが重要です。
・有酸素運動
ウォーキングや水中ウォーキングなどの低負荷の有酸素運動を行います。持久力を高め、全身の体力を向上させます。
維持期(術後3ヶ月以降)
この期間は、症状の再発を防ぎ、長期的な健康を維持することを目的とします。
・継続的な運動
定期的な運動を続け、筋力と柔軟性を維持します。ヨガやピラティスなどの体幹トレーニングを取り入れることも効果的です。
・姿勢の改善
日常生活での姿勢を改善し、腰部に過度な負担がかからないようにします。正しい姿勢を保つためのエルゴノミクス(人間工学)に基づいたアドバイスを受けます。
・ライフスタイルの見直し
適切な体重管理やバランスの取れた食事を心がけ、全身の健康を維持します。禁煙や過度の飲酒を避けるなど、健康的な生活習慣を続けます。
さいごに
腰椎後縦靭帯骨化症は徐々に進行することが多いため、初期症状を感じても診断を受ける方が少ない病気でもあります。少しでも早めに医療機関を受診することが重要です。早期診断と適切な治療により、症状の進行を遅らせることができます。疑わしい症状がある場合は、早めに医療機関を受診しましょう。