2024.07.03

頚椎後縦靭帯骨化症

けいついこうじゅうじんたいこつかしょう

頚椎後縦靭帯骨化症とは

脊椎(せきつい)は、人体の中心に位置し、頭部から骨盤まで伸びており、身体を支え、脊髄(せきずい)を保護する役割を持ち、運動や姿勢の維持に重要な役割を果たしています。

頚椎後縦靭帯骨化症(読み方:けいついこうじゅうじんたいこつかしょう)、別名OPLLは、頚椎の後縦靭帯(こうじゅうじんたい)が異常に骨化し、硬くなる疾患です。後縦靭帯は、その名のごとく脊椎の「後」を「縦」にはしっている「靭帯」で、脊椎を安定させる役割を持っています。この靭帯が骨化すると、脊髄や神経根を圧迫し、さまざまな神経症状を引き起こします。


▲後縦靭帯が骨化し脊髄や神経根を圧迫

特に50際前後で発症することが多く、性別では男性のほうが、女性よりもおよそ2倍発症率が高いことが知られています。また、糖尿病を患っている方や、肥満の方に発症することが多いことも知られています。

頚椎後縦靭帯骨化症の症状

頚椎後縦靭帯骨化症(OPLL)の症状は、骨化した後縦靭帯が脊髄や神経根を圧迫することで現れます。症状の重さや現れ方は個々の患者によって異なりますが、以下のような症状が一般的です。

初期症状

首や肩の痛み
首の後ろや肩の部分に痛みが現れます。初期段階ではこの痛みが主な症状であることが多いです。他には、慢性的な肩こりとして感じられることがあります。

首の可動域の制限
頚部の可動域が制限され、首を動かす際に痛みや違和感を感じることがあります。

進行期の症状

腕や手のしびれ・痛み
骨化が進行し神経根を圧迫することで、腕や手のしびれや痛み、特に片側の腕や手にしびれや痛みが生じます。これらの症状は持続的または断続的に現れることがあります。

感覚異常
触覚や温度感覚が鈍くなったり、異常な感覚(ピリピリ感や焼けるような感覚)が生じることがあります。

腕や手の筋力低下
腕や手の筋力が低下し、物を握る力が弱くなることがあります。特に細かい動作(ボタンを留める、ペンを握るなど)が難しくなることがあります。

歩行障害
足のしびれや力が入りにくくなることで、歩行が不安定になり、転倒しやすくなります。特に階段の昇り降りや急な方向転換が困難になります。

バランス感覚の低下
体のバランスを保つのが難しくなり、ふらつきや転倒のリスクが高まります。特に暗い部屋や洗顔時にふらつく事が多くなります。

排尿・排便障害
尿意を感じにくくなったり、尿や便が出にくくなることがあります。逆に尿失禁や便失禁が起こることもあります。

完全麻痺
適切な治療が行われず脊髄の強い圧迫が長期間続くと、四肢の完全な麻痺が発生することがあります。これにより、歩行や手の動きが完全に失われる可能性があります。

頚椎後縦靭帯骨化症の原因

頚椎後縦靭帯骨化症(OPLL)の原因は完全には解明されていませんが、いくつかの要因が関与していると考えられています。以下に、OPLLの原因として考えられている要因を詳しく説明します。

遺伝的要因
頚椎後縦靭帯骨化症は遺伝的な要因が強く関与しているとされています。家族に頚椎後縦靭帯骨化症を患っている人がいる場合、その家族内での発症リスクが高まることが知られています。特定の遺伝子が関与している可能性があり、これにより靭帯の骨化が促進されると考えられています。

加齢
加齢は頚椎後縦靭帯骨化症の発症リスクを高める要因の一つです。年齢とともに靭帯組織の柔軟性が低下し、骨化しやすくなることがあります。加齢に伴う代謝の変化や組織の退化が、靭帯の骨化を促進する可能性があります。

代謝異常
代謝異常がOPLLの発症に関与していると考えられています。特に糖尿病や肥満、高血圧などの代謝性疾患があると、OPLLのリスクが増加することが報告されています。これらの代謝異常が血流や栄養供給に影響を与え、靭帯の骨化を促進する可能性があります。

性別
性別もOPLLの発症に影響を与える要因の一つです。男性の方が女性よりもOPLLを発症するリスクが高いことが知られています。これはホルモンの影響や遺伝的な違いによるものと考えられています。

環境要因
環境要因も頚椎後縦靭帯骨化症の発症に関与する可能性があります。特に食事や生活習慣が影響を与えるとされています。例えば、ビタミンK2やマグネシウムの不足が骨代謝に影響を与え、靭帯の骨化を促進する可能性があります。

外傷
過去の外傷や首への反復的なストレスも、頚椎後縦靭帯骨化症の発症リスクを高める要因とされています。外傷や長期間にわたる過度の負荷が靭帯にダメージを与え、その修復過程で異常な骨化が進行することがあります。

炎症
慢性的な炎症が靭帯の骨化を促進することがあります。炎症が持続すると、炎症性サイトカインが分泌され、これが骨形成を促進する可能性があります。

これらの要因が組み合わさることで、後縦靭帯が異常に骨化し、神経や脊髄を圧迫することで症状が現れます。頚椎後縦靭帯骨化症のリスクを減らすためには、生活習慣の改善や定期的な健康チェックが重要です。

頚椎後縦靭帯骨化症の診断

以下のような手順で診断を行います。

問診と病歴の確認
患者さんが感じている症状(首や肩の痛み、しびれ、筋力低下、歩行障害など)について詳しく尋ねます。また、過去の病歴、家族歴、職業、生活習慣などを確認します。

身体検査
・視診と触診
首や肩の外観や筋肉の状態を視診し、触診によって痛みや硬さ、腫れなどを確認します。
・可動域検査
首の動きを前後左右に動かして、可動域の制限や痛みの発生を確認します。
・神経学的検査
筋力、反射、感覚の異常を調べます。具体的には以下のような検査が行われます:
・反射検査
腱反射をチェックし、神経の機能を評価します。
・筋力検査
腕や手の筋力をテストし、筋力低下があるかどうかを確認します。
・感覚検査
腕や手の皮膚感覚をテストし、しびれや感覚鈍麻の有無を調べます。

画像診断
・X線検査
頚椎の後縦靭帯の骨化を直接確認するために行います。首を様々な方向から撮影し、骨化の範囲や程度を評価します。特に側面像で後縦靭帯の骨化が確認されます。
・CTスキャン(コンピュータ断層撮影)
X線検査で確認できない詳細な骨化の状態を評価します。頚椎の断層画像を取得し、骨化の範囲や形態を詳しく確認します。特に骨の構造や細部を評価するのに有用です。
・MRI(磁気共鳴画像法)
脊髄や神経根の圧迫の程度、椎間板の状態、周囲の軟部組織の評価を行います。磁気を利用して、頚椎の詳細な断層画像を取得します。MRIは脊髄の圧迫や神経根の圧迫を詳細に評価できるため、この疾患の診断において非常に有用です。
・神経伝導速度検査(NCV)
神経の電気的な伝導速度を測定し、神経が正常に機能しているかを確認します。これにより、神経の圧迫や損傷の程度を評価します。
・筋電図(EMG)
筋肉の電気活動を記録し、筋肉や神経の障害の有無を確認します。特に筋力低下やしびれがある場合に有用です。
・血液検査
代謝異常や炎症の有無を確認し、他の疾患を除外するために行います。血液サンプルを採取し、糖尿病、甲状腺機能障害、炎症マーカーなどを調べます。

頚椎後縦靭帯骨化症(OPLL)の診断は、これらの検査を通じて総合的に行われます。特に画像診断はOPLLの診断において重要であり、X線、CTスキャン、MRIを用いて骨化の範囲や脊髄の圧迫状況を詳しく評価します。
 

頚椎後縦靭帯骨化症の治し方(保存療法)

頚椎後縦靭帯骨化症(OPLL)の治療は、症状の重さや進行度、患者の全体的な健康状態によって異なります。治療は保存療法から外科的治療まで幅広くあります。

薬物療法
・鎮痛薬
痛みを和らげるためにアセトアミノフェンやNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)が使用されます。
・筋弛緩薬
筋肉のけいれんや緊張を緩和するために使用されます。

理学療法
・ストレッチとエクササイズ
理学療法士の指導の下で、首や肩、背中のストレッチや筋力強化エクササイズを行います。これにより筋肉を強化し、症状の改善を図ります。

装具療法
・頚椎カラー
首を安定させ、動きを制限するために、頚椎カラー(ネックブレース)が使用されることがあります。これにより、痛みが和らぎ、回復を促進します。
 

頚椎後縦靭帯骨化症の治し方(手術)

保存療法で症状が改善しない場合や神経症状が重篤な場合には、外科的治療が検討されます。

後方除圧術・頚椎椎弓形成術
椎弓(ついきゅう)部分的に切除して脊髄の圧迫を解放します。これにより、脊髄や神経根への圧迫が軽減されます。背中からアプローチし、椎弓を削り取ることで脊髄のスペースを広げます。
・メリット
広範囲の脊髄圧迫を解消できる。比較的短時間で行える。
・デメリット
首の痛みについて回復に時間がかかることがある。

前方除圧術および固定術(ACDF)
前方からアプローチして、骨化した靭帯を除去し、脊椎を固定する手術です。骨移植や金属プレートを用いて椎間板のスペースを固定します。頚部の前方に小さな切開を入れ、骨化した靭帯を取り除き、代わりに骨移植やインプラントを挿入し、金属プレートで固定します。
・メリット
神経の圧迫を効果的に解消。椎間板の高さを回復し、頚椎の安定性を高める。
・デメリット
隣接する椎間板に負担がかかる可能性がある。

症状の重さや進行度に応じて、最適な治療法を選択し、早期に適切な治療を受けることが重要です。

頚椎後縦靭帯骨化症の治し方(リハビリテーション)

手術後はすぐにリハビリが開始されます。首や肩の可動域を保つためのエクササイズが行われます。

筋力強化
回復が進むにつれて、首や肩の筋力を強化するエクササイズが増えます。これにより、再発のリスクを減らします。

姿勢指導
正しい姿勢や生活習慣の改善を指導し、再発を防ぐためのアドバイスが行われます。

頚椎後縦靭帯骨化症を予防するには

頚椎後縦靭帯骨化症(OPLL)の予防方法については、完全に発症を防ぐ方法は確立されていませんが、リスクを減らすための生活習慣や姿勢の改善が重要です。

正しい姿勢の維持
デスクワーク時は椅子に深く腰掛け、背筋を伸ばして座るようにしましょう。モニターの高さは目の高さに合わせ、首を前に突き出さないように注意します。キーボードやマウスは、腕が自然に伸びる位置に配置しましょう。
スマートフォン使用時は目の高さに持ち上げ、首を下に曲げないようにします。長時間の使用を避け、定期的に休憩を取りましょう。

ストレッチ
首をゆっくりと前後左右に動かす、肩を回す、背中を伸ばすなどの簡単なストレッチを定期的に行うことで、筋肉の柔軟性を保ち、血行を促進します。特に、デスクワークや長時間の同じ姿勢を続ける際には、1時間に1回程度ストレッチを行いましょう。

筋力強化
プランク、背筋トレーニング、軽いダンベル運動など首や肩、背中の筋肉を強化するエクササイズを取り入れましょう。これにより、椎間板にかかる負担を軽減できます。

重いものを持ち上げる際の注意
重いものを持ち上げる際には、膝や股関節を使って持ち上げ、背中を丸めないようにします。首や背中に過度な負担をかけないように心掛けます。

適切な体重管理
適切な体重を維持することで、椎間板にかかる負担を軽減します。過体重や肥満は、椎間板に余分な圧力をかけます。

禁煙
喫煙は椎間板の健康に悪影響を与えるため、禁煙することが望ましいです。喫煙は椎間板の血流を悪化させ、変性を促進します。

バランスの取れた食事
ビタミン、ミネラル、タンパク質をバランスよく摂取し、椎間板と骨の健康をサポートします。特にカルシウムやビタミンDの摂取が重要です。

適度な運動
定期的な有酸素運動や筋力トレーニングを行い、全身の健康を保ちます。

定期的な休憩
長時間同じ姿勢で作業を続けると、首や背中に負担がかかります。1時間に1回は立ち上がって軽いストレッチを行い、筋肉の緊張をほぐしましょう。

適切な寝具の選択
自分に合った枕を使用し、首の自然な曲線をサポートする高さと硬さを選びます。首と背中がまっすぐになるように調整しましょう。マットレスは体をしっかり支える適度な硬さのものを選びます。柔らかすぎるマットレスは体のバランスを崩し、首や背中に負担をかける可能性があります。

ストレス管理
ストレスは筋肉の緊張を引き起こし、首や背中の痛みを悪化させることがあります。ヨガ、瞑想、深呼吸などのリラクゼーション法を取り入れ、ストレスを軽減しましょう。

定期的な健康チェック
定期的に医師の診察を受け、早期発見と早期治療を目指しましょう。特に、家族にOPLLの既往歴がある場合は、注意深く経過観察を行うことが重要です。

最後に

後縦靱帯骨化症は、重症化すると日常生活に大きな支障が出ることもある疾患です。また、いったん症状が改善したとしても、年数が経つと再度症状が現れることもあります。
心当たりのある場合は、早めに専門医の診断と適切な治療を受けることが重要で、治療が終わったあとでも、予防に取り組むとともに、定期的に検査を受けることをおすすめします。

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